林道の旅人
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四方山話 第5話
 
阿蘇神社奇譚



 仕事の都合で海の日の前の土曜、日曜を合わせて3日間がお休みとなった。ここ佐伯地方は梅雨の大雨が抜けないので、部屋でだらだらしようと考えていたら、姉からラインで連絡がきた。

「阿蘇神社に行きたい」

 珍しいこともある。神社仏閣にあまり興味のない姉が、阿蘇神社に行きたいというのだ。阿蘇神社とは熊本県阿蘇市にある肥後一宮の神社である。


 確か、阿蘇神社は群発地震で崩壊してしまったのではないか。そして、大分県から熊本県に行く道は崩落して迂回路を通らなければ走れないのではないか。

 ちょっと気になったので、会社関係で懇意にしている観光バス会社に問い合わせてみると、崩落しているのは一般国道57号の一部で、阿蘇市までは佐伯市から問題なく行けるらしい。阿蘇神社は建物がほとんど崩落して立ち入りができなくなっているので、観光のルートから外されているらしい。阿蘇神社が崩壊するほどだから、門前町も崩壊しているのだろう。大変な状況だ。

 姉に連絡すると、それでも行きたいという。まあ、暇な3日間だ。じゃあ行ってみるか。



 3連休初日に姉を積み込み佐伯市から阿蘇市方向に車を走らせる。ルートは、中九州自動車道経由、一般国道57号阿蘇市行きだ。



大分県内は問題なく走ることができた。阿蘇市に入るが特に損害の大きい家はない。しかし、ところどころに青のビニールシートを掛けた家があるのが見える。



阿蘇市や南阿蘇村は大変だというイメージがあるが、すべての家屋が倒壊しているというわけではないのだ。道路だけで言えば、大分県から阿蘇市までは何の問題もなかった。



 さて、宮路駅前である。駅舎も壊れているような感じはしない。駅前の家々も崩壊している様子はない。観光バス会社は阿蘇神社を観光ルートから外したというが、見ている光景と情報が一致しない。

「阿蘇神社に回って」


 
 姉の希望で阿蘇神社のほうに車を進める。第1駐車場には結構な車が入っていたので、第2駐車場に車を入れる。参拝の方々がいるのだろうか。阿蘇神社は参拝ができる程度の倒壊で済んでいるのだろうか。



 第2駐車場から参道を通らずに境内に入る。

「ん?」

 目に入るのはブルーシートだ。
 位置的に考えると拝殿につながる神輿(みこし)庫のようだ。壁が壊れてしまっている。

 地震からかなり立っているのに壁の補修まで手が回らないのだろうか。

 疑問に思いながら進むととんでもないものが見えてきた。



これは、阿蘇神社の桜門の2階部分の屋根だ。以前、来た時にはどっしりした姿を現していたのに、何ということだ。



 そばにあるのは神幸門だろうか。なんとか立っているが、桜門は倒壊してしまっている。



 拝殿も崩壊しているではないか。言葉にならない。
 下の画像は在りし日の拝殿。倒壊した建物の屋根部分が拝殿であったことを示している。
 


 第2駐車場側からは、拝殿も桜門にも近づくことができない。一度第1駐車場まで移動してみなければ。人の流れは第1駐車場の方に流れていく。



 しかし、ひどいものだ。以前の凛とした神域の気配はどこにもない。ここからはよく見えないが、ほかの建物にも被害が出ているようだ。



 横参道に入る。おや、鳥居は無事なようだ。あれだけの倒壊を引き起こす力がかかったのは、画像の左右方向だったのかもしれない。鳥居は力のかかる方向と平行に立っていた。だから倒壊を免れたのかも。



 しかし...。灯篭は耐えられなかったようだ。こんな大きさの灯篭を倒してしまうなんて、どれだけの地震だったのか。



 以前、訪問した時の灯篭はどっしりと入り口を固めていた。これが倒壊してしまったのだ。



 気を取り直して参道を進む。阿蘇神社の参道は横参道という形になっている。参道に入れば2階建ての桜門が見えるはずなのだが、白い壁と青いシートで覆われている。



 ちょうど桜門があった場所に、急造のお参り所ができていた。
 


 下の画像が在りし日の桜門。1階部分の中央にあった阿蘇神社のしるしが、倒壊した建物の上部に確認できる。つまり、2階部分が画面後方に倒壊し、1階部分がつぶれてしまった状態だ。お参り所の左上にお酒の樽が見える。下の画像と比べてみると位置的なものがわかるかと。



 手洗い場は無事のようだ。



 一体、どのような力がかかったらこのような惨事になるのか。姉は「桜門と拝殿の下で直下型の地震があったんじゃない?」と話していたが、そうかもしれない。狙ったように桜門と拝殿が痛めつけられている。



 まったく痛ましい限りだ。手洗い場で手と口を清め復興を祈り二礼二拍手一礼をする。

 はやく桜門と拝殿がもとのようになりますように。



 お参り所の横に在りし日の桜門の写真となにかの案内が掲示されている。



 熊本地震被害に伴う社殿復興奉賛のお願いである。振り込みの案内と、社頭での奉賛の二種の方法が示されている。社務所で託せばよいのだろうか。

 ん?社務所はどこだ?以前は桜門から入った左にあったはずだが。近くにはないようなので、第一駐車場の方に移動してみる。すると恐ろしいものが目に入ってきた。



 寄進者の名前を記した柱がなぎ倒されている。凄まじい力がここにかかったのだ。



 鉄筋で連結されている柱が無造作に捻じ曲げられている。これはひどい。地震の力の凄さを思い知る。



 あちこちを探していると社務所を見つけた。なんと、第一駐車場の中にあるお土産屋さんが、臨時の社務所になっていた。



 中では神職さんがいらっしゃった。奉賛の受け付けもあるので、必要事項を記入し神職さんに託す。

 ふらっときたので、そんなに大きなお金はないが、少しでも立て直しの費用になってくれたらと思う。姉と一緒に手続きをする。

「なんだか、ほっとしたわ」

 姉がぼそっとつぶやいた。



 神職さんの立っているところからは、崩壊してしまった桜門や拝殿が見える。心中をお察し申し上げる。

 さて、阿蘇神社に別れを告げよう。駐車場に入る時にはあまり、倒壊していないように感じたが、門前町は大丈夫なのだろうか。






  

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